当院でのTULSAの治療成績
一方で、TULSAは前立腺内部の治療範囲を自由に設定できるため、前立腺全体を治療する「全腺治療」とそれ以外の部分的な治療を行う「フォーカル治療」では、治療成績の意味合いが異なるため、それぞれに分けてご説明します。
全腺治療では、精嚢以外の前立腺全体を焼灼します。したがって、全摘手術や前立腺全体を治療する放射線治療や粒子線治療に近い考え方になります。放射線治療や粒子線治療(陽子線・重粒子線)は、照射した範囲内に再発するリスクがありますが、TULSAは加熱するため、治療した範囲はほぼ確実にすべての細胞が壊死し、治療範囲内に再発するリスクは極めて低いと言えます。ゆえに、TULSA全腺治療後に再発する可能性としては、 ・リンパ節や遠隔転移再発(治療時点で画像では検出されなかった微小な転移病巣が治療後に大きくなってきて検出されるもの) ・治療範囲外の局所再発(画像ではがんが前立腺内にとどまっているように見えたが、前立腺被膜外に微小ながん浸潤があったものが大きくなり検出されるもの) があります。そのため、再発形式としては全摘手術とほぼ同じ考え方となり、同じステージの方を対象としている限り、治療成績も全摘手術とほぼ同等となるわけです。 前立腺がんは、もし再発しても、放射線などの救済治療を実施したり、根治できなくてもホルモン療法が通常は数年間は有効なため、がん再発がすぐに死亡につながりません。そのため、がんの成績でよく使用される「5年生存率」というような指標は治療成績を示すのに適していません。実際、当院でも「5年生存率」は100%となります。 したがって、以下には「非再発率」をお示しします。何年後に何パーセントの方が再発せずに済んでいるか、というデータです。 以下に、医学統計でしばしば用いられるカプランマイヤー曲線という解析法を用いた「非再発率」のグラフをお示しします。

上記のグラフで示されるように、2025年3月時点では、TULSA実施5年後の非再発率は79%です。ただし、これにはすべてのステージの方が含まれています。TNM分類のT1c, T2a, T2b, T2c, T3a, T3bの方が含まれております。各ステージごとの非再発率は、細かく分けると患者数が少ないため、解析しておりません。
次にお示しするのはPSA値の変化です。各月のPSA平均値を示しています。PSA値は前立腺の正常な細胞もがん細胞も作る物質です。がん細胞の方が正常細胞よりたくさんのPSAを作るため、前立腺がんがあるとPSA値は高くなります。全腺治療後は、前立腺の細胞は尿道粘膜以外はほぼすべて壊死するため、PSA値はほとんどの場合0.5未満に下がります。

TULSA治療後は焼灼した組織は徐々に縮小し、体に吸収され最後には小さな線維瘢痕組織が残ります。そのため、前立腺のサイズが縮小しますので、がんの治療と同時に前立腺肥大症を治療することも可能です。 1年後までに治療前と比べて平均72%の体積減少が見られます。

フォーカル治療の方の非再発率を以下のグラフにお示しします。フォーカル治療の方で再発が見られたのはすべて前立腺内の治療範囲外の再発です。中には、性機能温存を強く希望され、がん病巣がギリギリの治療を行い、数年後に必然的に再発され、2回目のTULSA治療で根治した方もいらっしゃいますが、全摘手術を行うのに比べたら性機能をさらに数年温存できたという見方も可能です。5年非再発率は65%で、全腺治療より若干低いですが、再発リスクが高いことを承知でギリギリの治療を行った方々がいらっしゃるため、当然の結果と言えます。2年目くらいから再発が検出されるようになることが分かります。 局所再発リスクを最小限にするには、がん病巣から5-10mm拡大した治療範囲設定をお勧めしています。治療範囲とがん病巣からの安全距離の設定は、個々の病状に合わせて再発リスクと機能温存のバランスをご説明し、患者様のご希望に合わせて設定しますので、まさにテーラーメードの治療と言えます。

フォーカル治療後は、未治療で残存する前立腺の体積が患者様ごとに大きく異なります。PSA値は前立腺の体積に依存します。そのため、フォーカル治療後のPSA値はかなり幅があります。平均2前後となっています。

1.術後排尿障害
TULSA術後は焼灼した範囲の前立腺が一時的に腫れるため、その腫れ具合により、前立腺の中心を通る尿道が圧迫を受けて尿を出しづらくなることがあります。全く自力で尿を出せない尿閉状態になる方はまれですが、ある程度の排尿障害が一時的に発生することが多いです。尿路感染症を防ぐために残尿量が100ml未満となるまで、カテーテルなどを用いた排尿管理を実施しています。TULSA前よりすでに前立腺肥大症があり排尿障害がある方は、TULSA術後の排尿障害の程度や期間が長くなりやすいです。また、治療範囲を全腺にするか、フォーカル治療にするかによっても異なり、焼灼範囲が大きいと当然腫れる範囲が広いため、術後の排尿障害の原因となります。 過去72例の解析結果を示します。半分未満のフォーカルの方がそれ以外に比べると、1週間以上のカテーテルを必要とする率が2分の1になります。 術後のカテーテル管理方法については、術後排尿管理について、をご覧ください。

2.尿失禁
全摘手術後は括約筋がダメージを受けることでほとんどの方が腹圧性尿失禁を発症します。咳、くしゃみ、立ち上がる、歩く等の腹圧がかかる動作により尿漏れをしますので、紙おむつまたは尿パッドの着用が必要になります。数ヶ月かけて改善していきますが、完治しない方も多いです。 一方で、TULSAでは、がんが括約筋に食い込んでいるなどの理由でわざと括約筋を加熱しない限りは、括約筋は一切ダメージを受けないため、腹圧性尿失禁は発生しません。 前立腺の広範囲を加熱した方では、術後の前立腺内部の炎症による刺激で尿意切迫感を生じることがあり、程度が強いと切迫性尿失禁を呈することがありますので、切迫症状がある際には内服薬により症状を抑えます。
腹圧性尿失禁 : 0%
3.勃起機能
左右の勃起神経を温存するかしないかにより異なります。 がん病巣が神経の近くにあり、神経を温存できない場合もあります。 個々の病状により全く異なるため、温存希望の場合はご相談させていただきます。
性交渉可能な勃起機能温存率 78%
(術前勃起機能が正常な方)
4.射精機能
射精機能は勃起機能より複雑になります。 精液は睾丸で作られる成分と前立腺で分泌される成分(精漿)が混じってでてきます。前立腺を広範囲焼灼すると当然その部分は精漿を作らなくなるため、精液量は減少します。 また、前立腺の後ろ側には睾丸から精液・精子を運ぶ射精管が左右から入り、中央で合流して尿道に開口しています。前立腺の後ろ側にがん病巣がある場合は、射精管もがん病巣と一緒に焼灼しなければならない場合があります。射精管も焼灼すると閉塞して精子が出てこなくなります。がん病巣の完治後に閉塞した射精管を開放する手術を行う方法もあります。 精液が出てこなくなっても、オルガスムの有無には関係しません。 今後、妊娠を希望されるなどの場合は、ご相談させていただきます。
直腸障害発生率は0%
5.直腸障害
全摘手術での直腸穿孔、放射線治療では難治性放射線直腸炎のリスクがありますが、TULSAでは直腸障害の発生率は0%です。TULSA治療中は、直腸冷却デバイスを肛門より挿入して直腸壁を循環水により持続的に冷却するため直腸障害が発生しません。
社会医療法人 北楡会 札幌北楡病院 泌尿器科
前立腺MRI超音波治療センター